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不況時に「企業ブランディング」がなぜ効くのか?

 

消費者の視点:「広告出稿を以前ほどしない企業はビジネスがうまくいっていない」

 

 景気後退、あるいは不況下において、多くの企業が真っ先に「広告・マーケティング費用」を削減しています。そうした中で、消費者は「広告と企業のビジネスの関係」を実際にどのように見ているのか?こうした疑問に答える調査データ「Advertising’s Impact in a Soft Economy」(ソフト経済における広告のインパクト)が、2009年5月に米調査会社のアドオロジー・リサーチから発表されました。その調査によれば、48%以上の米国成人は、店舗、銀行、自動車のディーラーの広告出稿が以前より減少していることに対して「事業で成果が出ていない」傾向にあると見ています。一方、広告出稿量を維持している企業は「競争力がある、あるいはビジネスに専念している」と見ています。アドオロジー・リサーチの調査結果を基にした、不況下における企業の広告出稿の有無に対する消費者の視点を比較した「Marketingcharts.com」の記事では、以下のようにまとめています。

 

自動車ディーラーで比較すると、広告出稿量を減らしたディーラーに対しては、50%が事業で成果がでていないと感じており、19%が自動車を販売する気が薄いと見ている。広告出稿量を維持しているディーラーに対しては、34%が事業に専念していると感じている

 

銀行で比較すると、出稿量を減らした企業に対しては、48%が事業がうまくいっていないと感じている。広告出稿量を維持している企業に対しては43%が事業に専念しており、30%が競争力があると見ている

 

小売店で比較すると、出稿を減らした企業に対しては56%が事業が成功していないと感じており、今後事業を続けることが困難であると見ている。出稿量を維持している企業に対しては、47%が事業に専念しており、30%が競争力にある企業だと認識している

 

 アドオロジー・リサーチCEOのC・リー・スミス氏は、「現在の経済状況下で、広告の出稿はブランドに対して消費者からの好意的な視点を長期的に維持する上で非常に重要である。ソフトな経済において、広告は消費者の企業への信頼性を保証するだけではなく、何をどこで買うかということに影響を及ぼす。特に『広告によって消費者が気にかけている価値』に関して、適切に対処した時に影響がある」と発言しています。ただし、同調査では消費者の広告への好意的な見方とは裏腹に、多くの人たちは広告を避ける動きにあると指摘しています。以下は、よく消費者が行う広告を避けるための行動です。

・42%:テレビCMになるとチャンネルを変える
・33%:どれにもあてはまらない
・30%:インターネットのバナー広告をソフトウエアでブロックする
・28%:テレビ番組を録画してテレビCMを飛ばす
・13%:車の中で、衛星放送のラジオやMP3プレーヤーで音楽を聴く(広告なしの状態)
・5%:そのほか

 

 ここでのポイントは、多忙な消費者が行っている行為を邪魔するような形で広告が現れると(テレビ番組視聴中のテレビCMやポップアップタイプのバナー広告など)、消費者は広告を避けるので、現在のような経済状況下では「プッシュ型の広告」は「エンゲージメントの低下につながる」こともあるという点です。

 

 

消費者は価格ではなく価値を求める、オンラインは重要な購入意志決定の場に

 

 それでは、こうした状況下で、消費者は購入時にどんな要素を重要視しているのか?その答えとなるのが、5月22日に広告代理店のEuro RSCGによって発表された「How Consumers Define Value in 2009 and Beyond:PDFファイル」(消費者はどのようにして価値を確定するか)の調査があげられます。結論としては、消費者は価格ではなく「質と価値」をベースにして購入を決定しており、2008年2月に比べてこの回答率(70%)は25ポイントも増えていると報告しています。以下は調査で目についた回答率とポイントです。

・70%:消費者は「真の価値を発見するコトを必要としている」と信じており、購入によって得られる最良な価値を消費する
・78%:オンラインはその場で購入しなくても、「ショッピング経験」において非常に重要なパートを占めている。特に、ブランドのリサーチ、情報、意見を共有する上で重要である
・67%:カスタマーサービスは購入決定の大きな要素
・58%:信頼できる企業であることは購入決定の大きな要素

 

 また、80%以上が「企業が人間的な部分を見せるコトを望んでいる」と回答していますが、もちろんそこには「カスタマーサービス」が含まれます。このことから、消費者は企業と直接コミュニケーションすることをより望んでいることが分かります。Euro RSCG New YorkのCEOのアンドリュー・ベネット氏は、「今、企業がしなければならないことは、消費者の不安を取り除いて、消費者が自分や家族あるいはコミュニティにとって賢い購入意思決定をしていると安心させることが大切だ」と指摘しています。

 

 

ブランディングの効果的なチャネルは「オンライン、WOM、ソーシャルメディア」にシフト

 

 こうした消費者心理と視点の中で、企業は不況下であるにもかかわらず、積極的にマーケティング活動をし始めています。5月13日に実施されたANA(全米広告主協会)のコンファレンス「Brand Building in Tough Times」(厳しい環境下でのブランド構築)の調査によれば、129人のマーケッターのうち73%は「景気後退が終わる前にマーケティング活動を増やす」と回答しています。以下は、その内訳です。

・43%:景気後退が終わる3カ月前にマーケティング活動を増やす
・30%:景気後退が終わる6カ月前にマーケティング活動を増やす
・16%:景気後退が終わった時点でマーケティング活動を増やす

 

 さらに、ANAのコンファレンスで発表された調査データの中で、興味深いものは「ブランド資産構築のための効果的なチャネル」として、オンライン広告[61%]、ゲリラ/WOM(クチコミマーケティング)[57%]、ソーシャルメディア[40%]といった新しい媒体および手法への評価が高まった点です。2009年は2007年と比較すると、従来のマスメディアである、テレビと雑誌が16ポイント減、ラジオは5ポイント減、屋外広告が9ポイント減、新聞が17ポイント減というように、軒並み大きくポイントを落としています。かつて雑誌広告はブランディングで重要な役割を果たすと評価されていましたが、この調査を見る限りだと、その機能は、オンライン広告、WOM、ソーシャルメディアといったインタラクティブなマーケティング活動にシフトしているのが分かります。

 

 

不況下だからこそより重要になる「企業のブランディング

 

 ウォールストリートの経済アナリストによれば、米国の景気後退はすでに底を打って2009年8月には今回の景気後退は終わるという希望的観測もありますが、現実的には2010年1月あるいは2月という推測が妥当だと思います。そんな中で、上述の調査結果を実証するように、先手を打って「ブランディングキャンペーン」を展開している企業が出始めています。「AdAge」の5月18日の記事によれば、フェデックス、ゼネラル・エレクトリック、IBM、エス・エー・ピー(SAP)、ウォルマート、P&G、ユニリーバといった米大手企業がすでに企業のブランディングキャンペーンを展開していると発表しています。キャンペーンの主眼は、以下のように分類することができます。

 

 

不確かな時こそ企業は、消費者に直接「語らなければならない」

 

●SAPは、「IT’S TIME FOR A CLEAR NEW WORLD」をテーマにしたキャンペーンを実施

 SAPは、「IT’S TIME FOR A CLEAR NEW WORLD」というテーマを掲げたグローバルキャンペーンを、2009年5月にスタートしました。同グローバルチーフマーケティングオフィサーのマーティー・ホムリッシュ氏は「不確かな時こそ、企業は長期的なビジョンを持ち、安定して信頼がおけることを消費者に伝えて安心させる必要がある」と発言しており、新たにキャンペーンサイトを設けて、顧客、社員、関連会社などにSAPの考え方を訴求しています。

 

 IBMは2008年11月から「A Smarter Planet」というコーポレートキャンペーンをグローバルに実施しています。VPコーポレートマーケティングのジョン・ケネディ氏は、「IBMではクライアント、株主、社員、その他の関係各社が、IBMが実際に行っていること、提供しているサービス、今後の方向性を理解する以前に、今世界で何が起きているのかという全体像をきちんと理解する必要があると考えている。そこで、A Smarter Planet キャンペーンでは、世界がどのように変わっていくかという視点を埋め込んでおり、このメッセージは多くのオーディエンス、その中でも特に前向きな考え方をする人たちに関連性のあるものと思っている」と発言しています。

 

 ロレアルUSAの消費者製品部門プレジデントのジョセフ・カンピネル氏は「当社は、厳しい時期だからこそ広告出稿量を増やして、マーケットシェアを拡大するという戦略を取ってきた。またそれは常に効果を上げている」と発言しています。ロレアルに限らず、競合が不況でマーケティング活動を控えている時こそ広告の費用対効果が高まり、高いROI(投下資本利益率)を獲得する機会が生まれるので、企業は長期的な戦略判断をしています。

 米ウェルチズの2010度の広告予算は、前年度比の2倍となる1000万ドル(10億円:1ドル=100円換算)から1200万ドル(12億円)の予算で、引き続き広告を出稿する予定ということです。広告出稿量を増やす理由を、VPマーケティングのクリス・ヘイ氏は「小売店の陳列棚の中で、高価格帯の製品の一つであるウェルチズが、なぜその価値があるのかを消費者に語らなければならない」と説明しています。つまり、不況下では消費者を納得させるために、製品の価値を明解にすることが重要になります。

 

 

「アメリカンブランド」のメッセージに関連させたブランディング

 

 米ニューバランスのグローバルマーケティング&ブランドマネージメントのディレクターのクリスティン・マディガン氏は、米国の景気後退時における外国への仕事のアウトソーシングや大幅な人員削減という状況を見ながら、「Made in America」(メイドインアメリカ)をテーマに、「アメリカンブランドが米国に仕事を供給するというメッセージを訴求している」と発言しています。これも米国の現状を考えると納得できる戦略です。

 

 米通信大手のAT&Tも同様に、「Invest in America」(アメリカに投資する)というテーマを訴求しており、「アメリカンブランド」を中心にしたメッセージは重要な要素になっています。

 

 各企業とも厳しい環境下であるからこそ、消費者、顧客、社員、関連会社といった人たちに、「企業の価値」を直接語りかける必要性を感じています。競合他社が積極的なマーケティング活動を展開しない時こそ、逆に成長の機会であるととらえて、より広告出稿量を増やす方向を示しています。もちろん語りかけるメッセージが、ターゲット層と関連付けられていないとエンゲージメントはできませんが、以前からブランド力のあるといわれている企業が、より強くなる理由は、こうした積極的な企業姿勢にあると思います。

 

 消費者は不透明で先が見えない状態だからこそ、企業が積極的に現状と今後の展開を語り、「どんな価値を消費者に提供するのか」を知りたがっています。従来の限定された枠組みのマスメディアの中では、企業(ブランド)と消費者、あるいは消費者同士が、インタラクティブに「ブランドについての会話」をすることは困難でした。そのため、オンラインやWOM、ソーシャルメディアが、ブランディングのチャネルとなってきています。企業は、ターゲットが、ブランド(企業)を自身に関連付けて考えられるクリエーティブな「ストーリー」を提供し、会話を共有・循環できるプラットフォームを一緒になって作っていく、そんな姿勢がますます重要視されています。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmg/20090527/195893/?P=4


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